東北大学東北大学大学院教育学研究科・教育学部
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 卒業・修了する皆さんへ

 東北大学大学院教育学研究科・教育学部を修了・卒業する皆さんに向けた研究科長・学部長の祝辞を掲載いたしました。

教育学研究科長・教育学部長 宮腰英一
教育学研究科長・教育学部長
宮 腰 英 一

  このたびの東北地方太平洋沖地震に被災された皆様には心よりお見舞い申し上げます。教育学部・教育学研究科では、学生、教職員の全員が無事であることを確認できました。しかし、皆さんの中にはこの震災と津波でご家族、ご親戚、友人を亡くされた方、家屋を損壊、滅失された方もいらっしゃると聞いています。また、大学では未曾有の巨大地震のため、3月25日に予定されていた学位記授与式と教育学部・教育学研究科並びに学部同窓会主催の祝賀会もやむなく中止となりました。大学では連日、教職員が一丸となって復旧、復興の作業に当たっており、またロンドン大学はじめ国内外の大学や教職員、同窓生の方々からは心強い激励やお見舞いを頂いております。こうした状況のもとで皆さんの門出を例年のようにお祝いすることもできず、大変残念で、申し訳なく思っています。ささやかですが教育学部・教育学研究科のホームページにて教職員を代表して卒業・修了される皆さんに一言お祝いを述べさせて頂きます。

  この3月に教育学部・教育学研究科で、卒業・修了される方々は、学士(71名)、修士(38名)、博士(6名)です。その中には遠く本国を離れて学ばれた、学部2名、修士7名の留学生の方々も含まれます。その努力に特段の敬意を表したいと存じます。それぞれの課程を修了し、学業成就された皆さんには、一段と成長された眩しささえ感じています。学位記授与式において、英米では「始まり」を意味するcommencementの言葉を用います。卒業は学業の終わりではなく、まさしく出発なのです。教育学部・教育学研究科で学ばれた皆さんには、この大震災がもたらした試練に屈することなく率先して復興に立ち向かわれるとともにそれぞれ将来の夢の実現にむかって力強く邁進されるよう心より願っています。

  学部の皆さんが在籍した4年間、あるいは大学院時代を振り返ると、2007年の東北大学創立100周年、2009年の教育学部創立60周年と、皆さんはちょうど節目の年を過ごされました。一方世界に目を向けると、新自由主義的グローバリズムで生み出された貧困や格差拡大など「負の遺産」が重くのしかかった時代でした。しかし、21世紀に入り9・11同時多発テロや金融危機を経て、人間の安全保障、環境問題、食糧や資源問題など、人類が真剣に「サバイバビリティ」(生存可能性)や「サステイナビリティ」(持続可能性)を問い行動するようになってきました。また、本年1月のチュニジアの革命に端を発し、インターネットを通じてたちまちアラブ世界全体に広がった市民の蜂起は、抑圧された人々が民主主義と解放を求めるもので、新たな時代の到来を象徴する出来事といえます。大自然の脅威も、昨年夏の連日の猛暑、年明けの大豪雪、そして今回の巨大地震によって私たちに否応なく見せつけられました。

  こうした社会経済における市場メカニズムによる競争至上主義からの脱却や大自然の脅威に対する人類全体の畏怖の念は、調和のとれた世界を希求する我々に、協働、博愛、互恵、共助さらには公平性、民主性、自律性、普遍性などをキーワードとする新たな理念や価値への転換を迫っています。

研究棟(2011年3月18日)

研究棟(2011年3月18日)
(2011年3月18日撮影/研究棟)
  大震災発生から2週間、皆さんがこの間に体験し、考え、そして行動したことに、この人類的課題に答えるヒントがあるはずです。この巨大地震によって停電し、電話も通じず、水道が使えず、わずかな食料品で暖もとれず、あたりまえだった日常生活のシステムが破綻してしまいました。翌日から人々はスーパーやコンビニで食料品を調達するために長蛇の列をなし、また飲料水を求めて限られた水源を見つけてはそこに並び、あるいはガソリンや灯油の燃料を確保するために右往左往する・・といった光景が随所でみられました。しかし、その一方で救いもありました。列の中で見も知らぬ人と対話して情報を交換したり、また避難所で限られた食料や水を分けあったり・・人々が整然と並んで何のトラブルも起きていない、といった我が国の誇るべき民度の高さです。この冷静な行動は海外でも賞賛されていました。日常生活は非常にもろい基盤の上に築かれていますが、しかし、人々はこのような状況においてさえ協働し、相互に支え合い、譲り合う品位を保った優しさとしなやかな強さを忘れていない。

  教育という営みは人類の発祥とともに始まった最古の「発明」でもあります。教育は、「種の持続」の考え方、「サバイバビリティ」や「サステイナビリティ」を使命としています。かつて、ダーウィニストのT.H.ハックスリは教育の意義を「知性に大自然の諸法則を教え込むこと」であり、感情と意志とが自然の諸法則と調和して働くように形成することだ、と述べています。皆さんは、こうした人類社会の抱える課題に、公的な職業人として、あるいは市民、生活者として応えてくれるものと確信しています。

  これからの時代は、協働や共生を重視する「和」の精神が大切になります。これまでは欧米型グローバリゼーションでしたが、「和」の精神を日本そしてアジアから世界に向けて発信して行かなければなりません。私自身、アジアからの留学生と接して、また彼らの出身国や大学を訪問して、またこの震災を経験してますますその確信を強めました。この「和」は、個人に当てはめた場合、その一つの意味として「公」と「私」の調和を指しています。これから厳しい、しかし広い世界に旅立って行かれる皆さんに、「活私開公」という言葉を贈りたいと思います。これは公共哲学を考える京都フォーラムで提唱された言葉で、「和」の現代的解釈といって良いでしょう。「滅私奉公」とか、その逆の「滅公奉私」ではなく、課題との取り組みにおいて、「私」を積極的にかつ広く生かすことによって他者との新たな関係を築き、かつ「公」を一部の独占物にしないで、皆がそれに関わって行く、いわば新しい公共性を打ち出そうといった考えです。この精神にもとづき皆さん一人一人が、積極的に自己実現に向けて邁進して頂くとともに人類的課題にも先頭に立ってチャレンジして頂きたいと願っています。そのためにも、ともに学んだ友や、先輩、後輩、留学生、教職員との絆をこれからも一層大切にされますように希望します。

  以上、皆さんの前途に幸多きことを祈念してお祝いの言葉と致します。

Nun Komencigas
(2011年3月18日撮影/研究棟玄関付近より。3葉の写真を貼り合せたものです。)

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